「ズキューン」
 オレは体勢を崩した。とっさの判断だった。これ幸いと討って出たのは貢の方だった。そして、撃たれたのも貢だった。
「貢ーっ」
 一瞬、オレ達と、追っ手数人の動作が止まった。叫んだのは貢の親父、今回の黒幕の、倉橋理事長だった。
 貢の位置からは拳銃男の姿は見えなかったのだろう。そして、拳銃男からも貢の姿が――
 血だらけの貢、オレは逸実の手を取って走った。3階の廊下を反対側の階段に向かって。そして、そこに現われた追っ手の3人を、木刀で次々となぎ倒した。
 貢のことを考えている暇はなかった。そして、不思議なほど罪悪感というものも感じなかった。拳銃男は1人だろうが、まだ追っ手は半分も残ってやがる。早く、あの地下室へ。地下室まで行けば、頑丈な扉で完全にふさぐことが出来る、石造りの1室があるんだ。そこにもぐり込んじまえば、少なくとも殺されずに済む筈なんだ。
 やっとの思いで貯蔵庫の前にたどりついたとき、そこにいたのは、真剣を持った大男だった。こいつを倒さないかぎり、オレと逸実は助からない。鈍く光った剣は、オレの姿を見ると、ためらいを少しも見せずに襲いかかってきた。
 最初の一撃は間一髪でかわす。しかしすぐに次の一撃が。この男、剣を使い慣れている。オレは3合の打ち合いの末、とうとう木刀を折ってしまった。
 オレに打つ手はない。男は剣を大きく振りかぶり、オレを袈裟がけに切ろうと剣を振り下ろした。
 とその時、オレは見たのだ。オレと奴との間に割り込んだ逸実を。そして、その木刀が奴の喉に突き刺さるのを。

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