逸実、お前、オレのためにお前、人を殺したのか…?
 その場に倒れた男を、オレはそれ以上見なかった。貯蔵庫の中に入り、反対側の扉をあけると、地下に続く階段がある。まっ暗な階段をオレと逸実は降りていった。そして、突き当たりの扉をあけると、そこは広い空間。
「壁の仕掛けがちゃんと動かなかったらアウトだ」
言いながら、オレはレバーを手前に引いた。
 最初、ちょっとがらがらいってオレをいらつかせた扉は、やがて順調に降り始めた。その時間が長かった。近づいてくる足音。聞こえる怒声。そして、地下室への扉をあける音。拳銃男が入ってきたとき、扉は下30センチを残すのみとなっていた。
 不利な体勢で拳銃を構える男。オレは思わず、逸実を抱き締めた。そして、銃声。
 下手な鉄砲も数撃ちゃあたる。あいつ、驚異的にへたっぴなくせして、最後の最後になって、狙ったところに当てやがった。
「一郎、一郎!」
 大丈夫だよ逸実。ちょっと血が出てるけど、あたったのは腕だ。死ぬわきゃないって。
「逸実、けがなかったか?」
やがて完全に扉が落ち、オレはその場に崩れ落ちた。ったく、情けねぇ。気がゆるんで、力が抜けちまった。目が霞んで、逸実の顔もまともに見れないなんて。
「どこも何ともないよ。怪我してる奴があたしの心配なんかするな馬鹿野郎」
 遠くで聞こえた。パトカーのサイレンの音。やったな逸実、オレ達、生き延びたぜ。結局、オレが覚えていたのはそこまでだった。安心と、軽い貧血のため、オレはどうやら気絶しちまったらしい。
 ほんとに、情けないったら。

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