逸実は黙って聞いていた。何を想っているのか、オレにははかり知れなかった。何だか逸実の目が遠くて、オレの遥か向こうを見ているようで、それがなぜか、オレには耐えられなかった。
「逸実」
その時だった。オレたちが物音を聞いたのは。
「え?」
「何だ今の」
1階の方だった。一気に緊張感をたぎらせたオレたちは、互いの洋服をつかみあいながら、これ以上にないってほどに聞き耳を立てていた。
 そして窓ガラスの割れる音。人の足音。まさか――
「一郎、どうしよう」
洋服を通して感じられた逸実はふるえていた。こうなったら、オレが何とかするよりほかにない。
「逸実、お前の木刀は」
「ベッドの枕元に」
「とりあえずオレのを持ってろ。ついてこい。離れるなよ」
オレは足音を立てないように、逸実の部屋へと続くドアをあけた。続きの部屋にしたのは、こういう時のためだ。逸実の木刀を拾って、逸実が持っていたオレの木刀と取替えた。やっぱり、自分のの方がしっくりと来る。
「いいか逸実。目標は1階の貯蔵庫だ。あそこまで行けば、ガレージは近いし、地下室への階段もある。オレから絶対に離れるんじゃないぞ。誰かに会ったら、そいつで思いっきしぶったたけ。殺したってかまわねぇ。窓を割って入って来る奴なんて、まともな奴らじゃないからな。正当防衛で罪にゃならん」

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