夕飯を食って風呂も上がると、オレの部屋で雑談を交わすのが、最近のオレ達の習慣だった。今日も逸実はオレの部屋にやってきて、ベッドの上にちょこんと座った。肩にタオルを置いて、洗い髪をそのまま下ろしている。こうして黙ってりゃ、けっこう絵になるぜ、お前も。
「お母さん元気かな」
「何だよ。ホームシックか?」
「そうじゃないけど…家はお母さん1人じゃんか。心配してないかって、時々思うんだ」
「心配してないわきゃないだろうさ」
逸実のお袋には、オレ達が何に関わってるか、少しも話してはいないんだよな。ほんとの事知ったら、とてもじゃないが耐えられないだろうから。
「お前の母親は再婚しなかったんだよな」
「最初のころはそれどころじゃなかったから。だけど、けっこう話もあったみたい。それでも再婚しなかったのは、やっぱりお父さんが忘れられなかったからだって、言ってた」
「そういうところも、オレの理想なんだ」
逸実はオレを見上げた。それでオレは少し照れちまって、逸実から視線を中空に移して一気にしゃべり始めたんだ。
「オレは生涯の伴侶ってのは、1人でいいと思ってんだ。だからたとえ片方が死んじまっても、生涯その人を想って暮らせるなら、本当にそれで納得できるんだったら、その方が絶対にいいと思うし。だからオレ、お前のお袋みたいの、最高の理想だと思ってるんだ」
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