オレの心臓はおさまっていた。少し睨むようにオレを見つめる逸実に、オレはちょっと、笑いかけた。
「オレにも気になる奴がいる。そいつは向かいの家に住んでて、幼なじみで気が強くて、負けず嫌いで頭のいい奴なんだ。そんで、今目の前に立ってオレを睨みつけてる」
今度は逸実が驚く番だ。オレは立ち上がって、今逸実がやったように、逸実の肩に竹刀を突きつけた。絶句していた逸実は、押し殺したような声で、オレの視線に真っ向から挑んでくる。
「そいつは宣戦布告か」
あたらずとも遠からずって奴だな。オレは答えず、握りしめた竹刀にさらに力を加えた。
「受けて立ってやろうじゃんか」
そういうと、オレの竹刀を自分の竹刀で叩き落とし、そのままオレの脇を通って階段を上がっていった。
オレはおかしくなってしまった。お互いの気持ちを聞いただけなのに、オレと逸実の場合に限っては、なぜか宣戦布告になっちまう。あいつもおかしいし、オレも相当おかしいぜ。オレに告白する女はたくさんいたが、宣戦布告なら受けて立とうって言った女はあいつが初めてだ。相当に気が強い。頼もしいとも言える。そして、意地っぱりだ。
「でも、悪くない、な」
オレは暫く、声を立てずに笑っていた。これが、オレと逸実の長い戦いの始まりと知って。
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