「それが、良く判らない」
「判らないって?」
やっと、オレはその言葉をしぼりだした。
「気になる奴はいる。だけど、そいつを好きなのかどうかが判らない。嫌いじゃないことは確かだが、そいつに惚れてるのかって事になると、良く判らないんだ」
判らないのはこっちだ。逸実はいつもと違うし、オレだって…。判った。なにが違うのか。逸実の奴が、女に見える。
「誰なんだ、そいつは」
逸実は、ゆっくりとオレを振り返った。この表情は、良く判らない。
「一郎」
「え?」
「一郎、お前だよ」
オレの見ている前で、逸実は立ち上がって、竹刀をオレの肩に突きつけた。その表情は、いつもの逸実に戻っている。オレはただ呆然と、そんな逸実を見つめていた。
「なに困った顔してんだよ。お前が聞くから答えたんだろうが」
そいつはそうだ。いつもの顔に戻った逸実に、オレはたぶん安心したんだろう。オレはオレ自身の行動を理解することが出来た。オレがお前にそんなことを聞いたのは、気になったからだってこと。オレにとっても、お前は気になる奴だって事なんだ。
誰にも頼らない。誰にも弱みを見せたがらない。いつも意地を張って、全身全霊をかけて虚勢を張ってた奴。お前の弱みを見た奴ってのは、あとにも先にもオレだけなんだろうから。
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