「オレの弱点バンバン突いてくるじゃんか。頭がいいんだよな、お前って。帰るころにはオレ、自分の弱いところ全部克服してるぜきっと」
「帰れりゃいいけどな」
そう言った逸実の顔、オレ暫く忘れられないだろう。本当に久しぶりに見た、逸実の弱気だった。
「帰るんだよ。オレがいない初試合なんて、白けちまってしょうがないだろうが」
「そうだよな。剣道部きってのダテ男だもんな、お前って。道場のアイドルが惚れちまうくらいなんだから」
 逸実にそういう言い方されると、どうしても皮肉にしか聞こえないんだよな。
「お前はどうなんだよ」
「何が?」
「好きな奴とかいないのか」
逸実が、ちょっと驚いたようにオレを見て、それから視線を外して向こうを向いた。これはいつもの逸実の反応じゃない。いつも冗談言いあってたオレ達だ。こういう流れでの会話のパターンてのは、お互いに熟知してる。いつもだったら、つっぱらかった感じで『てめーにはかんけーねーよ』くらい言ってくる奴なんだ。
 急にオレは、心臓がドキドキしてくるのを感じた。な、何だよこいつは。逸実だけじゃない。オレの反応も、こりゃ普通じゃねーよ。
 そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、逸実はぼそっと、言葉をつないだ。

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