ここんとこ暫く、オレは逸実と打ち合いをしていなかったことに気がついた。学校ではオレも逸実も指導者の立場でいることが多いし、道場では練習相手が豊富だから、わざわざ逸実とやることもないのだ。逸実も強いけど、やっぱりオレの方が強かったし、2人とも段をとる方に夢中だったって事もある。だからオレは久しぶりに逸実とやって、結構驚いたんだ。
まず最初に気付いたこと。逸実の奴、かなり腕が上がっていた。オレも逸実も身体は大きくないから、力押しでいくような剣道じゃなく、むしろテクニックをバシバシ使って攻めていくようなタイプの剣士だ。逸実のテクニック、かなり磨きがかかっていて、オレになかなか自分の剣道をさせてはくれなかった。勝つためにオレは、自分の剣道を捨てて、力押しで攻めるしかなくなってしまったのだ。
「とりゃぁーっ」
面を着けていない逸実に、オレは寸止めで1本。逸実は剣を下ろして笑った。
「やっぱりつえーよな、一郎。格が違う」
「そいつはほめすぎ。オレいつかお前に追い越されるような気がしてきた。ずいぶん強くなったな」
「目標なんだ」
ん? 何のことだ?
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