見ると、逸実は黙りこくっていた。
「何を考えてる?」
「警察に言うべきかどうか」
 何だよ、その手があったんじゃないか。
「言うと問題でもあるのか?」
「相手が警察を抱き込んでるって可能性は…そうだな、たぶんないと思う。だけどあたしらが警察と関わると、あれを取り返そうって連中にあたしらのことがばれるんだ。だから、迷ってる」
「でも、問題が解決しちまえば、オレらが狙われることはない訳だろ」
「奴らが一網打尽になればね。時間がかかる。その間の身の保証さえどうにかなれば」
それなら…何とかなる。なるはずだ。
「どのくらい必要だ」
「1ヶ月。いや、どうかな。10日あればなんとか」
「ちょうど冬休みいっぱいか。オレのお袋の弟の嫁さんがいるんだけど、別荘持ってる。旧姓をもじって登録してるから、簡単には見つからないぜ。そこに行かないか」
「他人の別荘か。そこだったら、10日くらいごまかせるかもしれないな。すぐに連絡とれるか?」
「オレ叔母さんには可愛がられてるから、間違いなく大丈夫だ」
「外面のいい奴は違うぜ」
「バーカ、人徳っていうんだよ」
「人徳? 人畜無害の間違いじゃねぇの」
「こいつは」
まぁ、いいさ、軽口たたけるんだから。今のところまだ、こいつは大丈夫だ。

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