オレは想像してみた。オレが刺した人間の立場だったら、もちろんそのまま立ち去ったりはしないだろう。品物を奪い取るのはもちろんのこと、相手は生き証人だ。とどめを刺すか、連れ去るかしていたはずだ。あのとき、男の背中にナイフはなかった、ってことは、刺した奴はとどめを刺すために1度ナイフを抜いて――
「返り討ちにあったって事か」
「うん、そうだと思う。もう1度刺そうとしてナイフを抜いたところで、男にナイフを奪われて、自分が刺されてしまった。現場にナイフはなかったんだ」
「それでいいんじゃないのか?」
「その後男は助けを求めたんだぜ。どうして人の多い繁華街じゃなくて、裏通りになんか出たんだ。一郎、あの路地の様子、覚えてるか?」
オレは首を振った。あの状況でそんな状況観察が出来るかってんだ。そんなオレを、逸実はちょっと憐れっぽく見て、溜息をついた。
「毎日通ってるんだぜ。あそこにはいろんな箱とかが積み重なってるんだ。男はすぐには動けなかったと思う。重傷の上、人を1人殺しちまったんだから。奴は箱の陰に隠れてあたりの様子を観察したと思う。どっちが安全か。もしかしたら、繁華街の方を別口の追っ手が通ったのかもしれない」

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