「――それじゃあ一応整理すると、まず男の名前は佐川信一。M大の研究室に勤務している。28才。未婚。現場には誰かと争ったような跡があって、刺し傷は、左の肩胛骨の下に、刃渡り15センチくらいのナイフでつけられている。住所はK県H市。ここって、電車で2時間くらいかからないか?」
「もっとかかるよ。それで?」
「発見者はパチンコ店従業員Aさんで、7時ごろ、既に死亡していた被害者を発見して110番した。警察では大学関係者に事情を聞くと共に、怨恨と物盗りの犯行との両面から、目撃者探しに周辺の聞き込み捜査を行っている。物盗りでも怨恨でもないよな」
新聞記事を眺めながら、逸実は何か考え込んでいた。胡坐を組んで肘をついている。ほんと、女とは思えんな。
「どうした? 逸実」
「あ、いやさ、どうも状況が把握出来なくて」
オレが片膝ついて身を乗り出すポーズを作ると、逸実はオレの目をまっすぐに見ながら言った。
「ちょっと想像してみてよ。男が出てきた路地のこっち側はあたしら2人がいた。ほかには誰もいなかった。路地の向う側は繁華街。あの路地で、例えば2人の男が争っていたとするよ。そして、あの男が刺された。とすると、刺した男はどうなったんだ?」
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