「一応ほかに倉橋理事長がいないかどうか確認しないとね。それは2人で親にでも聞いてみましょうか。――そして、1番重要なの」
逸実は6を赤丸で囲った。
「はっきり言って、これだけ判ればあとは別にいいんだよね。あたしらは出来るだけ早く手を引きたい。だけど、人が1人刺された。あたしらがあれを持ってるってことがバレたら、無事でいられるかどうか判らない。とすると、身の安全をはかるためには、どうあっても不正を引きずり出さないといけない訳」
 まったく、運が悪いどころの話じゃないな、こいつは。逸実がいてくれて良かったぜ。もしあんとき逸実が先に帰っちまってたら、オレ1人でこの異常事態に直面しなけりゃならなかったもんな。ほんと、良かったぜ。
「でさ、とりあえず頼みがある」
「何だよ」
「あと2日したら、JRの遺失物コーナーへ行って、忘れ物とってきてくれないかな。道着とあれと。あれ、多分ビデオテープだと思う」
「お、おい」
「大丈夫だよ。一郎免許持ってるじゃん。行く前に鍵があるかどうか見て、鍵があれば楽勝だよ。免許証は1番信用される証明書なんだからさ。大丈夫だって」
「あの免許、学校に内緒なんだぜ。取り上げられるに決まってる。オレ、やだよ」
逸実、急にまじめな顔になって、オレを見つめた。ほんとに、今日の逸実は心臓に悪い。
「一郎。命と免許とどっちが大事?」
「い、命」
「あたし、一郎がいてくれて良かったと思ってるんだ」
 その一言だけで、もう何でもしてやるって気になっちまうのは、やっぱり、今日の異常事態のせい、なんだろうか。

次へ
扉へ
トップへ