逸実の家は、母1人子1人だった。経理事務所を経営していた親父さんが、逸実が中学に上がる直前になくなり、母親が事務所を引き継いで今に至っている。しっかりしたお袋さんで、まさにオレの理想にピッタリの人だ。年末で事務所も忙しいというので、オレが行ったとき出迎えてくれたのは逸実1人だった。
 前に逸実の部屋に入ったのはもう1年以上も前だったが、こいつの部屋は少しも変わっちゃいなかった。1枚だけ残った今年のカレンダーは、オレのと同じ奴だ。去年の年末に道場で配ってた奴。
「お前の部屋、模様替えとかしないのか?」
逸実はちょっとけだるそうにベッドに腰かけていた。
「そういやしてないな。高校上がるときにしたきりだ。それはそうと、一郎大学決めた?」
「オレ国立しか狙えない。だから今んとこ東大が第1志望」
「志望はできるよな、誰だって。うちも国公立だから、良くてS大」
「オレもその線だな。何だよ。また同じか」
「学部もだろ。経済」
「うちは経営、お前は経理か」
「サークルは剣道で」
「仕方ねーな」
ほんと、仕方ねーよな。逸実んちはそんなに金持ちじゃないから国立1本にならざるを得ないし、オレんちは親父様のポリシーで、国立以外は行かせてくれそうもないし、成績は変わらないから(誤解しちゃいけない。オレたちは学年で1、2を争っているのだ)近いところでそんなもんになっちまうよな。この腐縁、大学まで続くってのも、いいのか悪いのか。

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