それにしても、ここのペーパーは下から使っていって、使いおわったら上のが落ちてくるしかけになっているやつなんだよな。1番下のを除けば上に重なっているのは4つ。その全部を上からだして、下から2番目の芯の中に入れるなんて、逸実は何て事を言うんだ。持ち切れなくてペーパー2つ転がしちまったぜ。使う奴もかわいそうに。まさに、知らぬが仏ってやつだな。
「逸実、これからどうする?」
 脱帽だ。オレは逸実に下駄を預ける事にした。どう考えたって、逸実の方が修羅場には強い。オレだって馬鹿じゃないから後でいい案が浮かぶかもしれないが、今はダメだ。頭がパニックしていて何にも浮かんで来やしない。
「帰ろう。いつもと違う行動をして、どこでつっつかれるか判ったもんじゃないからさ。1度家に帰って、飯食ってからうちに来てくれる?」
「判った」
「それじゃ、早いとこ出よう」
 出る前に、逸実は自分の髪の毛を拾った。縛っていた髪をほどいたせいで、結構何本か転がっていたからだ。この辺もオレには真似できない。オレは竹刀を2本持って、外に誰もいないことを確認した後、逸実の手を引いてトイレを出た。
 オレはしばらく、逸実の手を離さなかった。

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