「お、おい、大丈夫か?」
駆けよって手を差し伸べようとした。が、できなかった。男の背中は血のりでべっとりと汚れ、オレは思わず、買ったばかりの白いジャンパーのことを考えて、手をひっこめた。
男はオレを見つめ、息たえだえに唇を動かしている。オレは背筋が寒くなるのを感じた。
「…た、頼む…。これを…もうすぐ奴らが追ってくる。その前に…こいつ、を…」
この血液の流れ方、はんぱじゃねぇ。
「あんた、病院に」
言いながら、オレは少しあとずさった。この男、何か持ってやがる。
「これを…」
「どうすればいいんだ」
突然逸実が、男の差し出した手に捕まれているものを受け取りながら言った。男はふるえる手で逸実の手首を握り絞め、すがるような目付きで逸実を見つめた。
「これを、…くぅ、倉橋理事長…」
その言葉を残して、男は動かなくなった。死んだのか、気絶したのか判らない。オレはただ呆然として、そこに立ちつくしていた。逸実はすばやく男の手を振り払い、代わりにオレの手首を握り絞めた。
「しっかりしろ一郎。逃げるぞ」
「え?」
「早く!」
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