「逸実…見てたのか?」
 オレの幼なじみにしてライバルの女。よりによって1番見られたくない奴だってのに。
「見てたから何だって? あたしゃ誰にも喋らんよ。一郎が道場のアイドルの榊ちゃんを振っただなんてね」
 背は小さいし、女言葉使わない。髪型は、さっきの女と同じと言えば言えないこともないが、彼女は、自分の髪が美しいことを十分に意識していて長く伸ばし、手入れもちゃんとしてるってのに、こいつの場合は、面度臭くて切らずにいたらどうしようもなく伸びちまったんで、仕方なくうしろで縛ってるって感じの長髪だ。どうやったらこんなに女らしくない女ができるのか、はっきりいってオレには興味があるね。
「喋らなきゃ見てていいってか?」
「そうは言ってないさ。悪かった。早く帰ろうぜ。いつもの電車逃しちまうぜ」
「ああ」
 幼稚園も一緒。小学校、中学校、成績も変わらなかったので、高校も一緒。趣味も同じだったから道場まで一緒。どういう訳か、逸実とは離れられない。幼稚園のころからけんか友達だった。今でもたいして変わらないな。けんかが剣道になっただけだ。

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