あたしと若原君、今宿題のまっ最中。
 今日は夏休み最後の日。
 今日遊んじゃったら、もうあとがないの。
 あたしはけっこう真剣になって、若原君の宿題を写していて…
 そうしたら若原君、ふいに言ったの。
「そう言えばオレ、まだ茜にキスしてなかった」
 それって、宿題必死にやってる人の科白なの?
 あたし、一瞬耳を疑ったけど、その言葉の内容にまっ赤になっていた。
「いきなりなに言うのよ」
「いましてもいい?」
 それって…ちょっと待ってよ!
「だめ! 心の準備ができてない」
「あと何分でできる?」
 そんな事言うの。
 そんな…何分あればできるってもんじゃないでしょう?
「あ、思い出した。オレ前に1回茜にキスしてるんだ」
 これにはあたしもびっくり。
 まさか、ほんとにあたしの知らない間に…
「なにそれ」
「ほら、お前が毒飲んで苦しんでたとき、意識朦朧としててさ、ちゃんと水飲んでくれなかったんだ。仕方ねーからオレが口移しで…いってーなあ」
 気がついたらあたし、若原君のこと殴ってたの。
 そんなこと、思い出したからって言わなくてもいいの。
 それじゃあ、あたしのセカンドキスって、あたしが覚えてないときだって事になっちゃうじゃない。
 そんなのあんまりだ。
「あたしのセカンドキス、ファーストキスと同じように思ってたのに…。ひどいよ! あたし、今度こそ大切にしようって…若原君のばか!」
 あたし、何だか悲しくて、若原君にあたり散らしたの。
 そうしたら若原君、あたしの頬に触れて、とってもすまなそうに言ったの。
「ごめん。オレの配慮が足りなかった。…お前のセカンドキスは今だよ。ちゃんと、覚えて」
 そう言って若原君は、あたしの唇にそっと触れた。
 それは何だか暖かくて、とってもやさしくて、あたしの悲しい心を溶かしてしまうには十分だった。
 ただ、触れただけのキス。
 でも、1番やさしかったキス。
 これは、若原君がくれた心ね。
 あたし、大切にするわ。
「これからもずっと、お前にキスするのはオレだから。オレがお前に最高のセカンドキスをやる」
「若原君…大好き」
「まだ、聡って呼べない?」
 今日はあたしのセカンドキスの記念日。
 だから聡って呼ぶのは、もう少し先にするね。
 記念日は多い方がいいから。
「まだ、もう少し、ね」

(今度こそほんとに)FIN

次へ
扉へ
トップへ