「何だよ。なに笑ってんだよ」
「何って…若原君て、何だか可愛くて…」
「可愛い…だって! おい、茜! お前何のつもりで…」
若原君、今なんていったの?
あたしのこと、茜、って。
「今、何て呼んだの?」
「お前、平原茜だろ? だから茜って呼ぶことに決めた。文句あるか?」
「ないけど…でも若原君…」
「オレは若原聡だ。お前が茜なら、オレは聡だろ」
「呼べないよ」
無茶いわないでよ。あたしがそんな風に呼べる訳ないじゃないの。
「弟だと思えば呼べる。ほら、呼んでみろよ」
「あたし弟いないもん」
「それじゃあ、呼べるまで特訓だ」
若原君のことを聡って呼べる日が、あたしの記念日になる。
これまでずっとあたしが育ててきた想い。
それは、とってもつらい想いだったけど、でも今あたしは、その想いを実らせることができたの。
若原聡は、あたしの心の名前。
あたしは心のなかに、いつもいつもその名前を刻みつけてきた。
そしてこれからも、あたしはその名前を刻みつけてゆくの。
若原君から、聡へと、名前は変わってゆくけれど、あたしの想いは同じ。
あたし大切に育てるから。
そしていつか、あたしは若原君にふさわしい女の子になる。
嫌いだった自分にさよならして。
「お前、きれいになったな」
それは、若原君がちょっと照れながら言ってくれた、想いの結晶。
あたし、その言葉に笑顔で答えるの。
「あたしきっと、もっときれいになるわよ」
って。
そうしてあたしは、今までの自分に決別したの。
始まりはユーリル。
四次元の向こうから、あたしに幸せをつれてきた。
そして今は、若原君の隣にあたしはいるの。
それがあたしの指定席だから。
平凡な昔のあたし。
あたし、あなたに教えてあげる。
あなたはしあわせになれるからって。
だからそんなに泣かないでって…
そしてあたしは、平凡な自分という殻を打ち破った。
FIN
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