「あ、あの…」
「聞こえなかったとは言わせないぞ。オレはお前のことが好きだ。だから恋人になってくれ。そう言ったんだ。お前の答を聞かせろ」
あたし夢を見ているのかもしれない。
こんな夢、きっと何度も見たと思うから。
でもこれは夢じゃないの。
若原君が、本当にあたしのことを好きだって…
あたし、どうしてなのか判らなかった。
若原君の言葉なら信じようと思ってたけど、あたしこれだけは簡単に信じられなかったの。
「あ、あの、だってあたしは、美人じゃないし…引っ込み思案だし、太ってて…」
「オレは美人が好きだなんてひとっ言も言った覚えはないぞ。…頼むから結論だけ言ってくれ。オレもう限界だ」
本当に?
本当にあたし、若原君に好かれてるの?
それは信じていい言葉なの?
あたしが1番欲しかった言葉。
あたしが夢見ていた言葉。
「あたし…若原君が好き」
言っちゃった。
若原君は驚いたようにあたしを見ていて…
そして、近づいてきて、あたしを抱きしめたの。
若原君の大きな身体が、あたしを包み込んで、あたしは息ができないくらい苦しかった。
でも、そんな苦しさは、幸せと同じ色を持っていて…
「本当だな。もう嘘だったなんて言わせないぞ」
「うん…」
ささやくような、それでいてどことなく恥ずかしそうな若原君の声。
あたし、めまいがしそうだった。
信じられないくらいのしあわせに、あたしはこのまま気を失ってしまいそうだったの。
「お前、いつからオレの事好きだと思った?」
そんなこと、どうして聞くの?
「…あの、入学式のときから」
「嘘だろ?」
若原君、あたしを抱きしめていた腕を返して、あたしを引き離した。
そのまままじまじとあたしを見たの。
「嘘じゃない。本当」
「それじゃあ、オレがお前の部屋に行く前からずっと、お前はオレのこと好きだったって言うのか? クラスにいたころからずっと」
あたし、黙ってうなずいた。
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