「姫が死んでいたなんて、ぜんぜん思わなかった。…若原君の言ってた3つの質問は、どういう風に解釈すればいいの?」
「まあ、たぶん死亡届をださなかったのは、グレンの死を調べられて、姫が死んだことを知られるのを恐れたからだろうな。ユーリルとグレンが兄弟だって事を隠していたのは、あの、訓練の時点でオレ達に疑われるのを恐れたからだ。だってさ、死んだ兵士ならともかく、死んだ弟の名前でオレを呼ぶだなんて言ったら、オレじゃなくたってその裏に何かの意図があるだろうくらいは感づくぜ。実際ユーリルにはその意図があったんだ。死んだはずのグレンが生きてリンゲルの前に現われたら、オレが偽者だってすぐに気がつくからな。たぶんユーリルは、リンゲルが疑いもせずにフローラのことを迎え入れることを1番恐れていたはずだから。偽者が1人いれば、もう1人も偽者かもしれないって思わせるために、オレをグレンに化けさせたんだ。オレはリンゲルに、『オレ達にはうしろぐらいところがあるぞ。さぐってみろよ』って言うためにいたんだ。ったく、ユーリルはほんとに頭のいいやつだ。すっかりだまされた」
「あたしは若原君の方がよっぽど頭がいいと思う。少しはあやかりたいな」
「あやからせてやるよ。夏休みの宿題で」
「え? 本当?」
あたしは若原君が夏休みの宿題を写させてくれるのだと思って、嬉しくなった。
「判らないところはびしばし教えてやる。覚悟しろよ」
あたし、一瞬期待したことを後悔したけど、でもすぐに、それもいいかなって思ったの。
若原君に教えてもらって、少しでもあたしの頭がよくなったら、それで儲け物だもんね。
それに、最後の4日間で宿題をやるってことは、そのあいだずっと若原君といられるってことで…。
あたし、急に現実に立ち返ったの。
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