「いいだろう、続けよ」
「は! ありがたき幸せ。
では申し上げます。時は2年前にさかのぼります。姫の乗った馬車が、何者かに襲撃されるという事件がございました。その時、わが弟グレンも命を落しました。そして、姫は重傷を負われたのです」
あたしは驚いていた。
ユーリルが話を始めたとき、あたしはユーリルが偽者をごまかそうとしているのだと思っていたの。
でも、ユーリルはあたしが偽者だって、ばらしてしまった。
その時からあたし、ユーリルがいったい何をしようとしているのか、正直言って判らなかったの。
今でももちろん判らないけど、それはあたしと若原君が知りたかったことに関係あるって、そのことだけは判っていた。
あたしの驚きなんか意に介さないように、ユーリルは先を続けていたの。
「…刀で、脇腹を一太刀。姫は私におっしゃいました。このことはお父さまには言わないで、と。そして静かに息を引き取りました。姫に傷を負わせた者達は、姫が亡くなられたことは確認できませんでした。私たちも、姫がおられるときそのままの暮らしをし続けました。まるで姫がそこにいらっしゃるかのように。ですから、姫が王宮への旅を始めたとき、彼らは半信半疑だったと思います。姫に与えた傷はかなりのもの。それが、姫のお命を奪ったのか、それとも、回復されて、馬車に乗っておられるのか。
誕生会のときには確認できませんでした。ですから、姫がお戻りになって、着替えをなされたときに、身体の傷の有無を確かめたのです。そして、2年前の傷がこの姫にはないことを知って、犯人はこの狂言を思いついたのです。姫が、数あるパーティーに出席なさる時に、1度も耳のうしろの見える髪型をしなかったことを、ほくろがないことを隠しているのだと思って」
「違う! 儂は姫様を襲ってなどいない。この者の偽りだ! 儂は、儂は…」
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