「殿下は、姫の身体に傷がないことを確認したのです」
「嘘だ!」
叫んだのは、かわいそうなくらいうろたえきったリンゲル叔父だった。
「姫の寝室が覗かれるという事件が起こりました。姫の誕生日の夜です。姫はその部屋で着替えをしていたそうです。残念ながら犯人を捕らえることはできませんでしたが、それが殿下の手のものではないという証拠もございません。その時、悪漢は確認したはずです。姫の身体に、刀傷が1つもないことを。殿下はそれによって、この姫が偽者であることを確認したのです。
そうです。この姫は偽者です。姫、少しの間ですので、我慢していて下さい」
そういうとユーリルは、あたしの寝巻の胸元を大きく開いたの。
あたしはびっくりして、隠そうとした。
バストは見えてなかったけど、恥ずかしかったんだもの。
そんなあたしの手を、ユーリルはやさしく押し留めた。
「少しの間です。姫、見せて下さい」
ユーリルの真剣な目に、あたしはそれが大事なことなのだと悟った。
そして、手の力をゆるめたの。
「陛下は覚えておられるはずです。生まれたときから、姫の胸元には小さなほくろがおありでした。姫は成長してからもそのほくろをたいそう気にされ、胸元の開いたドレスはお召しになりませんでした。ご覧下さい。この姫には、そのほくろはおありになりません」
「…そなたの言うとおりだ。確かに、赤ん坊のころのフローラには、胸元のほくろがあった。ただ、そのことは王宮では儂とフレイラと、フレイラの待女達しか知らぬはずだ。…このフローラは、儂のフローラではないのか…?」
「国王陛下をたばかりました罪は、このユーリル、生涯かけて償う所存にございます。しかし私は、王弟殿下の罪を糾弾せずにはいられなかったのです。このまま続けさせていただいてよろしゅうございましょうか」
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