「そなたは始めからそう言っておったな。証拠をつかんで見せると。では、証拠が見つかったという訳か」
「その通りです。動かぬ証拠を」
「では、見せよ」
 王様はあたしを見ていた。
 その目は複雑な表情をたたえていて、あたしには正確に読み取ることができなかったの。
 リンゲル叔父があたしの方に来ようとするより早く、今まで黙って成り行きを見つめていたユーリルが、いきなり立ち上がっていた。
 はっとして誰もが動きを止める中、ユーリルはあたしの目の前に立って、そして、そこにいるすべての人達に向かって、言った。
「リンゲル王弟殿下は、姫様が偽者である証拠をつかんだとおっしゃいました。そして、姫にティカオの毒を盛り、我々の動きを封じてから、この部屋になだれ込んだのです。そして、この姫は偽者であるから、本物の姫の右耳のうしろにあるはずのほくろはこの姫にはないと。それを確認したとおっしゃいました。では、ご覧下さい。姫の右耳のほくろを」
 あたしはユーリルの言葉にあわせて、ちょっとうしろを向いた。
 そして、ユーリルが静かに髪の毛を持ち上げる。
「おお…」
 そこにいる人達全員が、異口同音に言った。
 あたし自身には見えなかったけど、みんながなにに驚いたのか、あたしには判ったの。
 あたしの耳の後には、ほくろがあったから。
 それはあたしが小さい時からとっても気にしていて、できるだけ人に見せないようにしてきた、あたしのウイークポイントだったの。
 1番がくぜんとしていたのは、当然リンゲル叔父だった。
 ユーリルは一言、失礼、と言って、あたしの髪を元に戻した。
「姫にはほくろはあるのです。これで、リンゲル王弟殿下の言われたことが真実ではないと判りました。国王陛下、それは認めていただけますでしょうか」
「そなたの言うとおりだ。リンゲルは嘘をついていた。それを認めよう」
「ありがとうございます。しかし、リンゲル王弟殿下が証拠もなしに姫を告発したとは考えられません。確かに殿下は証拠を見つけたのです。ただし、それは我々が考えうるような証拠ではありません。殿下だけがご存じの証拠でした」
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