あたしはユーリルから差し出された杯を持って、水を飲もうとした。
でも、あたしの身体はまだ痺れが取れていなくて、それを見た若原君は、ユーリルから杯をもぎ取って、あたしの口に流し込もうとしていた。
あたしはその水を飲みながら、恐怖に身体がふるえていた。
歯が杯に当たって小きざみな音を立てるのは、毒のせいだけではなかったの。
その時、部屋に入って来た人がいた。
ユーリルの部下だった。
「申し上げます! 隊長殿、我々は囲まれています!」
「何だと!」
部屋にいるすべての人間が止まっていた。
「その数およそ1個中隊。森の中から突然現われました」
「すぐに応戦の準備を。それから、陛下にこのことを知らせよ」
「は! かしこまりました。しかし、王弟殿下には」
「殿下にも知らせよ。貴殿のお屋敷に狼藉者が入り込んだと」
「は!」
あたしの頭、まだ少し朦朧としていたけれど、その頭で考えても、これがかなり異常な事態だって事は判っていた。
リンゲル叔父のお屋敷は、王宮に引けをとらないくらいにしっかりと警備されたお屋敷だったの。
1個中隊がどのくらいの人数なのかは判らないけど、それほどの人数がここに入ってこられる訳がない。
だとしたら、これはきっと、毒の続き。
リンゲル叔父がつかわした兵士のはず。
若原君はあたしの肩を抱きしめていた。
「オレが側にいて守る。心配するな」
ユーリル達は様々に配置について、切り合いの音がこの部屋まで届いていた。
大丈夫。
あたしには守ってくれる若原君がいる。
あたしは安心して、若原君の腕にもたれていたの。
やがてユーリルが駆け込んできて、あたし達に言った。
「ここは危険です。姫をつれてどれだけ逃げられるか判りませんが、とにかくついてきて下さい」
若原君は軽々とあたしを抱きあげていたの。
あたし、とっても重いよ。
それなのに若原君、少しも重そうな顔しないのね。
あたし、今がどんな状態かを忘れてはいなかったけど、ふと、不謹慎なことを考えて、若原君を見つめていた。
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