あたしを抱き起こすと、若原君は小さな声で言ったの。
「どうしたんだ!」
「痺れて…判らない」
 若原君はあたしを抱きあげて、ベッドまでつれていった。
 そして、そこに寝かせると、すぐに大声で言った。
「リーナ! 来てくれリーナ!」
 リーナはすぐにやってきた。
「ユーリル隊長をすぐに呼んでくれ。姫が至急お呼びだと」
「かしこまりました」
 リーナもすぐにでていって、若原君はあたしを真剣なまなざしで見つめていたの。
「姫、すすめられた杯を、どのくらい飲まれましたか」
 若原君が言ったのは、おそらくリンゲル叔父が取り替えてくれた杯のこと。
 あたしの舌もかなり危うかったけど、なんとか声を出すことはできた。
「なめた…だ、け」
「判りました。もう遅いかもしれませんが、すぐに吐き出していただきます。
 ミラ! 来てくれ!」
 若原君の声でやってきたのは、まだ14、5歳に見える、若い待女だった。
「はい、ただいま」
「水を何杯か。それから、大きめの入れ物を。姫は吐き気がされるそうだ。それを受けられる程度のものを」
「かしこまりました」
 あたしはすでに意識が朦朧としてきていた。
 そのあとまわりでなにが起こったのか、よく判らなかった。
 でも、気がついたとき、あたしは胃の中のものを全部吐き出すような格好で、たらいに顔を埋めていた。
 胃を軋ませながら、あたしは胃袋までも吐き出したくなるような苦しみを味わっていた。
 ほとんど食べていなかったから、あたしの胃の中からは、おそらく気を失っているわずかの間にどうやってか飲まされた水と、胃液だけしか出てこなかった。
「これは、ティカオの毒です」
 いつしか側に来ていたユーリルが言った。
「少量を飲むだけで、身体が麻痺し、痙攣して、場合によっては死に至ります。ですがおそらく姫の場合、量は多くはなかったようですし、処置も早かったので、まもなく回復するでしょう。解毒剤を用意させます」
「それより、毒を盛った犯人を捕まえなければ! こんな卑劣な手を使いやがって」
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