あたし、若原君の世界に割り込もうとした自分を、とても恥ずかしく思っていた。
 あたしがなにも返事をしようとしなかったから、若原君はすうっと立ち上がって、あたしに言った。
「そろそろ時間だな。オレ、帰るよ。また明日な。…明日はまたパーティーか?」
「そう。リンゲル叔父の主催のパーティー。リンゲル叔父のお屋敷に馬車で行って、そこに泊まるんだって。ちょっと不安」
「オレがついてるさ。大丈夫だよ。それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
 若原君が出ていって、あたしはベッドに入ったの。
 そうしていると、あたしはさっきの若原君の言葉が、思ったよりもあたしを傷つけたのだということに気がついた。
 あたし、若原君にあんな風に断わられるとは思っていなかったの。
 それは、あたしが今まで若原君と話をしてきて、若原君の会話のパターンとかを、多少なりとも判ってきていたから。
 若原君はあんな風に、友達になりたいって思っている人を、むげに断わったりはしない人だったから。
 少なくとも今まではそうだったから。
 あたしは、若原君があたしを受け入れてくれると思っていたの。
 確かに言葉では受け入れてくれたけど…
 どうしてなんだろう。
 あたし考えて、1つの結論を出すに至った。
 若原君は、もしかしたら自分のほかの友達のことを考えたのかもしれない。
 今までの若原君の友達が、あたしを受け入れてくれるかということを。
 それを考えたとき、若原君は、自分の友達が、あたしを受け入れることがないって事を思ったのかもしれない。
 だから、お前がいいんなら、なんて言葉で、あたしに警告したかったのかもしれない。
 そうだよね。
 若原君の明るい友達が、あたしなんかを受け入れるはずないよね。
 そして、若原君にとっては、あたしなんかよりも何倍も、その友達が大切なんだよね。
 どちらかを取れって言われたら、その友達を取るよね。
 あたし、悲しかったけど、それで納得していたの。
 それは仕方のないことだから。
 あたしは気持ちを切り替えて、眠るために楽しいことを考え始めた。
 そして、あたしは寝苦しい夜を迎えた。
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