「オレ、自分から話しかけるのが苦手だから、オレとおんなじ性格したまわりの奴は、たぶん誰にも話しかけないだろうし、オレにも話しかけないだろうなって。オレ、それ考えたとき、ずいぶん寂しい気がしたんだ。世界中の人間が人見知りをしていたら、それってものすごくつまんない世界だぜ。オレ、そのこと考えたとき、気がついたんだ。もしかしたら本当は、世界中の人間がオレと同じなのかもしれないって。
オレとおんなじように、みんな引っ込み思案で、でも、勇気を持って話しかけているのかもしれないって。それだったら、オレは話しかける人間になるべきだって。みんなオレと同じで、話しかけられるのを待ってる。だったら、オレはそいつより先に話しかけるべきなんだ。そこにいるのはもう1人のオレなんだから。誰かが話しかけてくれるのを待ってる、少し前のオレなんだから」
若原君、あたしのことを言ってるんだ。
自分から話しかけようとしない、あたしのことを。
あたしは若原君ていう人は、もともと話しかけるがわの人間なんだと思ってたの。
誰にでも気安く話しかける資質を持った人だって。
でも、それは違ったんだ。
若原君も、人に話しかけるのが恐かったの。
でも勇気を持って、人に話しかけているの。
あたし、自分が恥ずかしかった。
話しかけて嫌な思いをするのを、無意識に怖がっていた自分。
みんな誰でも同じだったのに。
「平原はあのときのオレなんだ。オレには平原の気持ちがよく判るよ。そんな事言っても信じるかどうか判らないけど」
若原君の話には、可能性がある。
あたしもいつか、若原君みたいになれるかもしれないって。
「あたしも、変われるかな。若原君と同じ、話しかける側の人間になれるかな」
あたしの言葉に、若原君はちょっと意地悪そうに言ったの。
「お前のその、怠け癖をなおせばな。楽な方にばっか流れていこうとしないで、少しはイバラの道を歩こうとしないと。お前って、けっこう怠けもんだろ」
うーん、当たってるだけになにも言えないじゃない。
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