あたしの知らないところで、若原君もきっと苦労しているの。
あたしが1人でこの部屋にいるとき、若原君は自分の部屋にいるか、ユーリルの部下達のところにいるかしているんだもの。
若原君はなにも言わないけれど、見えないところで大変な思いをしているの。
だからあたし、若原君とけんかしないように、楽しい気持ちでいることに決めていた。
できるだけ心配かけないようにした。
それが、若原君の心の重荷を、少しでも軽くすることだから。
あたしにはそのくらいしかできないから。
そうしてあたしは、この世界に来てから、28日目の夜を迎えていた。
部屋には若原君が来ていた。
今日は4日ぶりのお休みの日で、あたしと若原君はずいぶんいろいろな話をしていたの。
若原君の通っていた中学の話。
あたしも子供のころの話とかをいろいろしていた。
あたし、子供のころから引っ込み思案だったんだよね。
小学校時代はよくいじめられたっけ。
そんな話、誰にもできないと思ってた。
でも若原君は聞いてくれて、そして言ったの。
「オレも子供のころはけっこう人見知りだったんだぜ」
あたしを慰めるために言ったのだと思ったけど、でも、今の若原君から、人見知りの若原君を想像することなんかできなかったから、あたしは思わずふきだして笑っていたの。
「やっぱり信じねーか。そうだよな。今のオレが言ってもきっとわからねーだろうな」
「本当なの?」
「人が恐くてさ、何か言ったら噛みつかれるんじゃねーかと思って。でも、オレあるとき思ったんだ。もしも世界中の人間がオレと同じ性格だったら、どうだろうって」
それは不思議な考え方だった。
あたしは黙って聞いていた。
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