「最後、姫が悪漢に襲われかけたっていうのに、あの離宮の警備はお粗末すぎる。フローラの庭にいる姫を殺そうとすれば、誰にだってできるぜ。フローラを慰めるために、あんなに危険な庭を作ってやるなんて、気が狂ってるとしか思えねーよ。この国の感覚がオレが思っている以上にオレ達とかけ離れているってんなら、まあ判らないでもねーけど。でも、オレは今まで暮らしてきて、そこまで違うって印象は受けてないんだ。オレの言うこと間違ってる?」
 若原君が言うとおり、ユーリルの言うことは不自然なことばかりだった。
 あたしは気付かなかったけど、若原君はこんなにも的確に、ユーリルの不自然さを見抜いていたの。
 若原君て、本当にすごいんだ。
 あたしいまさらながら感動していた。
 この人は本当に頭がいい。
「若原君は間違ってないと思う。でも、それならユーリルはどうしてあたし達に嘘を言うの? どれが嘘で、どれが本当なの? 今までユーリルが言ったことで、本当のことはいくつあるの?」
「オレには判らない。だけどたぶん、嘘は1つだと思う。それを隠すために、ユーリルは嘘を重ねているんだ。オレがした3つの質問は、幹から出た枝葉みたいなものだよ。根っこは1つだ。オレはそう思ってる」
 つまり、どうしてこの嘘をついたのかっていう質問に、ユーリルが答えてくれるとしたら、その答えは1つだって事なの。
 そして、若原君は前に言ってた。
 2年前のことがひっかかる、って。
 答えは2年前にあるのかもしれない。
 でも、それ以上はあたしには判らなかった。
「平原、今日の予定は?」
 気分を変えるように、若原君は言ったの。
 あたしも、考えるのをやめていた。
「キャンセルした。ほら、フローラ姫は身体が弱いから」
「きっと、本物はな」
「なによ、それ。何か言いたそうだね」
「べーつにぃ」
 それからのあたし達は、久しぶりにクラスのみんなのことや、テレビのことや、近所のお店のことなんかを話していた。
 この世界に来てから、すでに20日が経っていた。
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