若原君はさらに質問を続けた。
「グレンはどんな死に方をしたんだ」
「姫を狙った悪漢に殺されました。馬車を襲われたのです。馬車に乗っているときは、まず御者が狙われますので」
「判った。…平原、お前はどうしたい? これからユーリルのことを決めるのはお前だ」
 あたしの答えは決まっていた。
「もうしないって約束すれば許すわ」
 あたしの言葉に、ユーリルは目に見えて明るい顔になっていた。
「平原殿…」
「約束して。二度とこんな事はしないって」
「お約束致します。私は二度と平原殿に邪な事をいたしません。フローラ姫に誓って」
 ユーリルは本当にほっとしたようだった。
 きっと彼にも判っていたのだと思う。
 自分のした事がどんなに卑劣な事だったか。
 そして、一晩苦しんだんだろう。
 あたしもほっとしていた。
 ただ、若原君だけが、納得し切れないような顔をしていた。
「ユーリル、仕事に戻ってくれ。そしてこれからも平原を頼む」
「判りました。平原殿、寛容な御処置、感謝しております。生涯忘れません」
 そうしてユーリルがでていったあと、若原君はそこに残って、しばらく考え込んでいるようだった。
 あたしの視線に気付いたのだろう、顔をあげて、言った。
「ユーリルの奴、嘘をついてるみたいだな」
 あたし、驚いてた。
 さっきのユーリルの様子は、嘘を言っているようには見えなかったのに。
 若原君はいったい何を見たんだろう。
「判らないか? オレがした3つの質問の答え、説得力がなさすぎるよ。オレ、ますますあいつが信じられなくなった」
「どうして? あたしにはもっともらしく聞こえたよ」
「それなりにはな。でも、どうして姫が嘆くから死亡届を出さないんだ? 死亡届くらいだしたって、姫に嘘をつくくらいはできたはずだろ? 姫が死亡届の受付窓口にいるわけじゃないんだから。死亡届は王宮に出す。離宮とはかけ離れているんだから、姫がそれを知ることができる訳はないんだ。それに、メリルが悲しむからオレにグレンとユーリルが兄弟だと教えないってのも変だ。教えるくらいはしても差し支えない。要は、オレがメリルを母親扱いしなければいいだけだから」
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