「私は姫の…平原茜殿の部屋で、姫と同じ顔の平原殿を見て希望を持ちました。この人は私を愛してくれるかもしれないと。それは漠然とした希望でした。でも、あの時に私の希望ははっきりと形になったのです。あの時です。姫が私をきれいだと言ったあの時です。
 私の希望は、次の姫の言葉によって、無残にも打ち砕かれていました。姫が愛しているのは私ではない。その言葉は、私を地獄につき落しました。その日から私の苦悩は始まりました。私にとって、平原殿の言葉は姫の言葉だったのです。姫は面と向かっては私にグレンが好きだとは言いませんでした。その言葉を、私は平原殿から聞いたように思えたのです。姫が、平原殿の口を借りて私に語ったように。私は狂いました。私には、平原殿が姫に見えていたのです。
 私がどのように思っていたとしても、私の罪は許されるものではありませんでした。如何様にもお裁き下さい。平原殿の言葉には、すべて従いましょう」
 ユーリルは言葉を終えて、静かに目を閉じていた。
 あたし、ユーリルにとんでもないことをしていたのだと思って、知らずに身震いしてた。
 あたしがユーリルにきれいだって言ったの、あれがすべての始まりだった。
 あたし、ただほめたつもりでいたの。
 そのことが、こんなにユーリルを傷つけるなんて、思ってもみなかった。
 その後あたし、若原君が好きだって言った。
 あれは、ユーリルには言ってはいけない言葉だったのに。
 あたし、許してもいいと思い始めていた。
 あたしだけがユーリルに傷つけられたんじゃなかったから。
 あたしもユーリルを傷つけていたから。
 ユーリルは苦しんでいたんだ。
 あたしの心の変化に気付いたのかそうでなかったのか、若原君が話し始めていた。
「ユーリル、グレンが死んだとき死亡届を出さなかったのは、姫のためか?」
 そんな事は今回の事には関係ないのに、若原君はまるで話の続きのように平然と話した。
 ユーリルもそのことには気付かないように答えた。
「姫がグレンが死んだことを信じなかったので。遠くに出かけていると思っておられたようです。手紙が来ないと嘆いておられました」
「グレンとユーリルが兄弟だって事をオレ達に隠していたのは?」
「母が…メリルが聡殿を自分の息子だと思うことができないと、私に話したので。ここへ来たら話すつもりでした。ただ、その時間がなかったので」
 ユーリルの言うことは、一応は筋が通っているように思えた。
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