「若原君、よく聞いて。あたしは若原君に危険なこととかはして欲しくないの。だから、犯人の名前を聞いても、すぐに飛び出していったりしないって約束して。よく考えてから行動するって。ね?」
 若原君は、あたしの言葉に少し戸惑ったようだった。
「…判った。約束する。教えてくれ」
「あれ、ユーリルだった」
 若原君、反射的に行動しようとして…でも、すぐに思い止まってくれた。
 約束してもらったのがよかったみたい。
「あいつ…なんて事を」
 若原君は相当頭に来ているようだった。
 声がふるえていて、怒りを押さえようとしているのが、姿の見えないあたしにもよく判ったの。
「若原君、落ち着いて。襲われたのは若原君じゃなくてあたしなんだから。あたしだって怒ってる。だから気持ちは判るけど、ともかく落ち着いて考えようよ。判るでしょう? 若原君より、あたしの方が怒ってるんだよ。そのあたしがここまで落ち着いてるんだから、若原君も落ち着いて。今のあたしに人の心配までさせないで」
 あたしの言葉を、若原君は首をひねりながら聞いていた。
 ともかく、気をそらすことはできたみたい。
「お前、何でそんなに落ち着いてるんだ?」
「さあ、どうしてかな。きっと、若原君があたしよりもっと落ち着きがなかったからだよ。若原君をなんとかしなきゃって気持ちが多く働いたみたい」
「そうか。それでか」
 若原君は、完全に落ち着いていた。
 もう大丈夫みたい。
「もっと近くに行っていい?」
 あたし、ちょっと身体を固くしたけど、さっきあたしが来ないでって言ったから、若原君とあたし、かなり遠い位置にいるんだよね。
 あたしがうなずくと、若原君は近づいてきて、ベッドのあたしの隣に座った。
 腕を伸ばして、あたしの肩を抱く。
 あたしはもう、若原君に恐怖を感じることはなかった。
「お前、ユーリルになにされた?」
 ささやくように、若原君は言ったの。
 その顔はあたしの顔にとても近くて、あたしはどきっとした。
「キス、された。それだけ」
「あいつ許せねー」
「参るよね。あんなのがあたしのファーストキスなんて。思ってたのとずいぶん違うんだもん」
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