あたしの普通じゃない様子に、若原君も気がついたみたい。
 あたしに近寄るのをやめて、そのまま立ちつくした。
「平原?」
 あたしはどうしたらいいのか判らなかった。
 でも、このままじゃいけない。
 若原君にお礼も言わないといけない。
 若原君が悪いんじゃないってことも言わなきゃ。
 それに、今あたしがどうしてふるえているのかも。
 あたしは判らなかったけど、とりあえずなにか言おうと思って、口を開いた。
「若原君、あたし、若原君が恐い」
 若原君はなにも言わなかった。
「若原君はしないよね。あんな事しないって言って。約束して」
 若原君は怒っているのかもしれなかった。
 でも、あたしの質問には答えてくれた。
「オレはしない。たとえ好きな女の子だったとしても、好きな女の子だからこそ、傷つけるようなことはしない。自分の欲求を満たす事よりも、相手を幸せにする事の方が大切だから。オレはあんなに汚いことはしないよ」
 あたしの心が、すっと楽になっていったの。
 若原君の言葉なら、あたし信じられる。
 これがあたしの聞きたかった言葉なんだって判ったの。
「若原君のおかげで、男性不信にならなくてすみそう」
 あたしは、男の人がすべてユーリルみたいだと思ってたら、きっとなにも信じられなくなっていただろう。
 さっきのあたしはそうだったから。
 若原君は、あたしを救ってくれた。
 ユーリルによって失われてしまいそうだったあたしの心を、若原君が救ってくれたの。
「助けてくれてありがとう。それから、これは若原君が悪いんじゃないから。自分を責めたりしないで。あたし、きっと大丈夫だから」
「犯人は必ず見つける。オレは平原にこんな事をした奴を許さない」
「若原君、あれが誰だったか判らなかったの…?」
 確かにまっ暗だった。
 若原君が判らなかったとしても、ぜんぜん不思議じゃない。
「お前、誰だか判ったのか?」
 若原君の口調は、今すぐにでも殴り込んでいきそうな感じだった。
次へ
扉へ
トップへ