あたしどのくらい抵抗していただろう。
 ふと、抑えつける腕が軽くなり、それとともに、あたしの口が自由を取り戻していた。
 あたしいつの間にか目を閉じていたの。
 固く閉じた目は、あまりに固く閉じすぎたせいか、開けるのに少し時間がかかった。
 それでもやっとこじあけると、2つの影が争っていて、その1つが窓から姿を消すところだったの。
 1つ残った影は、窓わくに取り付いて、追うかどうするか迷ったようだったけど、結局は追わずにこっちを振り返った。
 あたしはびくんと身体を震わせた。
 残ったのがユーリルかもしれないと思ったから。
 そんなあたしに、影は優しく声をかけた。
「平原…」
 若原君だ。
 若原君が助けてくれた。
「ごめん、オレが側についてたのに…恐かっただろ?」
 あたし、どうしたの?
 今どんな気持ちでいるの?
 あたし、ほっとしていいはずなのに、まだ恐怖感が続いているの。
 誰に恐怖しているの?
 まさか、若原君に…?
「オレ、従者なのに、お前の危険が判らなかった。オレ、お前のこと守るって言ったのに。オレのこと怒っていいよ。オレが悪いんだから。お前の気の済むようにしていいよ。殴りたかったら殴っても。オレ、さいてーの男だ」
 若原君は悪くない。
 それは判っているの。
 だけどあたしは声を出すことができない。
 恐いの。
 若原君が恐いの。
 あたしは若原君が、ユーリルと同じくらい恐いの。
 それは、若原君が男だから。
 ユーリルと同じ、男だったから。
「平原…?」
 若原君は、あたしに近づいてこようとした。
「いや、来ないで!」
 あたし一生懸命自分に言い聞かせた。
 若原君はあたしを助けてくれた人だって。
 でも、あたしの身体はそれを受け付けなかった。
 ずっとふるえたままだった。
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