そんな話をした次の日の夜、あたしはベッドのなかでまどろんでいた。
浅い眠り。
昼間ごろごろしていて、夜ちゃんと眠れなくなってしまった、ちょっと軽い不眠症。
それでもやっとまどろみ始めたとき、あたしは部屋のなかで気配を感じていた。
「ん…」
あたしは何も考えずに、寝返りを打った。
暗い部屋で目を開けると、そこには1人の影があったの。
あたしは驚いて声をあげそうになっていた。
その時、影はすばやい動きで、あたしの口をふさいだの。
あたしの中に突然恐怖がわき上がって…
若原君がとなりの部屋に寝ている。
声が出せれば、きっと助けてくれるはず。
あたしは影からのがれようと、精一杯の抵抗をしていた。
影はさらにあたしを戒めて…
あたしほとんど、影にだきしめられていた。
「…姫」
え? この声はユーリル?
あたしは抵抗するのをやめていた。
影がユーリルだと知って、安心していたの。
ユーリルも、あたしが暴れるのをやめたと知って、力をゆるめてくれていた。
今までのしかかるようにしていた身体も、ゆっくりと起こしてくれて、あたしの口をふさいでいた手も、静かに外されていった。
「ユーリル、こんな夜中に、どうしたの? なにかあったの?」
月明かりさえカーテンで閉ざされたこの部屋では、ユーリルの顔を見ることは、ほとんど不可能だった。
あたしはベッドから起き上がって、それでもユーリルの顔を見ようと、目をこらした。
「姫、姫は本当にグレンが好きなのですか?」
あたし、ユーリルの質問に半ば呆然とした。
夜中に女の子の部屋を訪れて、これが最初の言葉なの?
あたしは少し腹を立てていた。
「いま何時だと思ってるの? そんなの、いまする話じゃないでしょ?」
あたしの言葉は、ユーリルにはまったく届いてはいないようだった。
「どうしてグレンなんだ。…幼いころから、姫はずっとグレンを好きだった。どうして私じゃないんだ? 私はグレンよりもずっと前から姫を好きだった。それなのに…」
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