寝巻に着替えて、あたしが眠る前の一時を過ごしていると、待女の声がして、若原君が来たことをつげた。
「姫、お休み前の一時をお邪魔致しまして、申し訳ございません」
若原君はそう言ってほほえんだあと、不意に真顔になって、あたしの方に走ってきた。
あたしがびっくりして、でも疲れていたのでなにもできないでいると、若原君はあたしを通り越して、窓の方にかけよっていた。
「なに?」
「いまここに誰かいた」
誰かって…どういう事?
「誰か覗いてたんだ。間違いない。…少し気付かない振りすればよかったんだけど、お前がヤバい話始めたら困るからな。これからは聞かれて困ることはあたりを確認してからするようにしようぜ」
あたし、身震いをしていたの。
だって、あたしさっきここで着替えたよ。
もしかしたらそれも見られてたって事?
あたし、若原君のいうヤバい話がどうというよりも、自分の裸が見られたかもしれないことを思って、鳥肌が立つくらい嫌な気分になっていた。
「若原君、お願いだからもっと警備して。そんなの耐えられない」
「ユーリルに言っとくよ。警備の人数を増やすように。ばれてからじゃ遅いもんな」
「女の子の部屋を覗くなんて許せない!」
若原君、あたしの言葉に、ぽかんとしたの。
そしておもむろに、笑いだした。
「そうか。お前、なに怒ってんのかと思ったら、覗かれたことを怒ってたのか。…そうだよな。女なら着替えるの覗かれたくないもんな。判ったよ。ユーリルにそう言っとく」
あたし、若原君の言葉に少し落ち着きを取り戻していた。
そしてあたしは思い出したの。
晩餐会の前、あたしが言ったこと。
「若原君、ごめんなさい」
若原君は、この話の流れに関係ないあたしの言葉に、ちょっと戸惑ったようだった。
「何が?」
「昼間のこと。あたし、八つ当りしちゃって。ごめんなさい」
「ああ、別に気にしてない。オレがただでさえ気が立ってるのに余計なこと言ったから…オレも反省してる」
「そんな! あたしほんとに八つ当りだったの。あのときの言葉は忘れて」
「もう覚えてない。…疲れただろ。オレ帰るわ」
「うん、ありがと」
若原君がでていって、あたしはさっきの人影のことを考えていたの。
誰か、あたしを疑っている人がいるのかもしれない。
あたしが本当の姫かどうか、さぐろうとしている人が。
だとしたら、あたしきっとばれてしまう。
これ以上の演技なんてできないもの。
今までの演技で不信を持った人がいるのなら、これからの演技でもっと不信をつのらせるだろう。
あたし、それが恐かった。
だけど今夜は疲れているから、もう考えるのはやめよう。
ベッドに入ったあたしは、それからいくらもたたないうちに、眠りに引き込まれていた。
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