あたしは王様と並びながら、おふれの声を待っていた。
そして、その声はすぐにあたしの耳に響いてきていた。
「リンドグイン国王陛下並びに、フローラ王女殿下、御出座!」
あたしは国王陛下に続いて、観音開きに開かれた扉をくぐっていった。
入ってきたあたしを見て、そのホールにいるすべての人が、感嘆の溜息を漏らしたの。
あたしはその人々の1人1人の表情を見ながら、喜びがわき上がってくるのを感じた。
(なんとお美しい)
(まるで大輪のフローラのようだ)
(今は亡きフレイラ王妃様にうりふたつだ)
あたし、まわりを見回しながら、1番優雅に見えるようにほほえんだ。
再び、感嘆の声が上がった。
(見よ、あのまなざし)
(いや、それよりもあのクロギスの濡れ羽のような黒髪だ)
(なんとお身体のふっくらしていることか)
(亡き王妃様と並べてもおそらく引けをとるまい。あのように美しい方は2人とおられないかと思っておりましたが)
あたしはその羨望のまなざしのなかにあって、ゆっくりと席に腰かけていた。
1度席についた王様が立ち上がると、人々は静かになっていた。
「16年前にハドルの離宮に旅立ったわが娘フローラは、今日こうして16才の娘になって、我が元に帰ってきた。これほどの喜びがほかにあるだろうか。今宵は儂と我が国民にとっては最良の日。フローラよ、皆の者にそなたの姿をもう1度見せておくれ、さあ」
あたし立ち上がって、にっこり笑って一礼したの。
人々のなかから、また、声ともつかない声が上がった。
「今日はフローラの16才の誕生日だ。皆思い思いに楽しんでくれよ」
王様が座って、その言葉が終わったことを知らせていた。
王様はあたしを振り返って、本当に愛しいものを見るようにあたしに微笑みかけていた。
あたしもほほえんだけど、その心のなかは複雑だった。
あたし、こんなにいい王様をだましてるの。
あたし、いたたまれなかった。
いますぐにでもここを飛びだして、本当の平原茜に戻りたかった。
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