誕生日の当日、あたしは朝から忙しい思いをしていた。
 朝から湯浴みなんて、あたし朝シャンとかしない人だったから、身体がだるくて一気に疲れてしまったの。
 そして髪をすいて、姫らしい高貴な型に結いあげる。
 あたしの髪はまとまりがないから、かなり時間がかかってしまった。
 途中、ご機嫌伺にユーリルが1回顔を見せたけど、それだけで、あたしはたくさんの待女たちに囲まれて、1つの隙もないようにドレスアップされていた。
 待女達は一様にあたしをほめたたえていた。
 あたしの嫌いな髪質も、少し上を向いた鼻も、彼女たちは羨ましそうに、言葉多く話し続けていた。
 あたしが嫌いな顔。
 彼女達には、その1つ1つが、羨望の対象だった。
 あたしは不思議な気がしていたけれど、決して悪い気分ではなかったの。
 彼女たちは本気だったから。
 本気であたしのような顔に生まれつきたかったって、言ってくれたから。
 そしてあたしもだんだん、本気で信じるようになっていった。
 あたしは美しいって。
 それはとんでもない的外れなうぬぼれだったけど、ここにいるかぎりはいいよね。
 この世界では、自分が美しいんだって思っていてもいいよね。
 自分の世界に帰ったら、あたしは平凡な十人並みでしかないんだもん。
 そうしてあたしはバルコニーにつれていかれて、並み居る国民の前に姿を現わした。
 とてつもなく大きな歓声。
 それはただ1つの言葉となって、あたしの耳に入ってきていた。
『フローラ姫様、万歳!』
 あたし、気分がよかった。
 教えられていたように、国民に手を降り続けた。
 あたしに対する賛美ではないことは忘れてなかったけど、それでもあたし、この状況を大いに楽しんでいたの。
 こんなにたくさんの人々が、あたしを見て熱狂してくれる。
 少しでも間近で見ようと、身体を乗り出しては近づいて来ようとしてくれている。
 王家の姫って、こんなに楽しいものだったのね。
 王家に生まれたものは、こんなにも恵まれているんだ。
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