あたし、立っていられなくなって、その場に座りこんでいた。
 涙が出てきて止まらなかったの。
 あたし、こんなに好きにならなければよかった。
 もっと早くに若原君の気持ち、確かめておけばよかった。
 そうすれば、こんなに好きになる前に、諦めることができたかもしれないのに。
 あたし、こんなに泣いてみっともない。
 まるで若原君を責めてるみたいじゃない。
「ごめんなさい、泣いたりして」
 若原君はいつの間にか、あたしの側まで来ていた。
「お前、大丈夫だよ。お前はいい女だ。何があっても大丈夫だよ」
 若原君、慰めてくれるんだ。
 でも、これは若原君の役目じゃないよ。
 自分がふった女の子を慰めるなんて、ちょっと変な役まわりだよ。
 でも、ここにはあたしを慰めてくれる人なんていないんだ。
 若原君にはそれが判ってるのかもしれない。
「頑張れよ、平原。頑張れ。お前にはあの夜空に輝く巨人の星がついているじゃないか」
 若原君、あたしの肩を抱いて、遠くを指差した。
 あたし、反射的に若原君の指す方を見て…
 そこにあったのは、明かり取りのランプ?
 あたし、あまりのことに、思わずふきだしていたの。
「あ、笑った。笑ったな?」
 若原君、天才だ。
 この人は人を笑わす天才だ。
「若原君てサイコー。若原君の隣で落ちこむなんて不可能だ」
「笑いの魔術師と呼んでくれ」
 そうしてまた、あたしは若原君を好きになっていた。
 告白なんかしても、この思いを消すことはできないの。
 たぶんもっと早く告白していたとしても、あたしは若原君を好きになることをやめることなんかできなかっただろう。
 若原君を嫌いになることなんかできない。
 きっと若原君の事を知るたびに、あたしは今よりずっと、若原君を好きになるだろう。
 それだけで、あたしはしあわせになれる。
 恋はつらいけど、それに余るほどのしあわせもつれてくるから。
 あたしは今、若原君を好きな自分を、少し好きになりかけていた。
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