「姫は…グレンを愛していると?」
突然、愛しているなんて言葉を聞いて、あたしはびっくりしていた。
愛しているかどうかは判らないけど、あたしは若原君を好き。
「愛しているかと言われると困るけど…でも、好きだわ。好きなの」
「姫…」
その時、おふれの言葉を待たずに、入って来た人がいた。
若原君だった。
あたし、はっとして振り返った。
若原君、ほとんど抱き合っているかのようなあたしとユーリルとを見て、ずいぶん驚いているみたいで…。
あたしは一瞬、動けなくなってしまったけれど、ユーリルの方が冷静で、あたしをすうっと引き離した。
「姫がステップに自信がないと言われたので、お相手をして差し上げていました。でも、大丈夫のようです。私はこれで引き上げさせていただきます。よい夢を、フローラ姫」
うやうやしく礼をして、ユーリルは出ていってしまった。
あたしと若原君の間に、なんとも言えない重苦しい空気が流れていた。
沈黙を破ったのは、若原君の方だった。
「オレ、ひょっとしてかなり邪魔者だった?」
若原君、あたしたちのポーズを見て、誤解したみたい。
でももしかしたら聞いていたかもしれない。
あたしが、若原君を好きだって話してた事。
あたし、聞くのが恐かったけど、でも聞かずにはいられなかったの。
「話してたこと、聞こえてた?」
「最後の方だけな。でも、聞かなかったことにしてやるよ」
それはどういう意味だろう。
あたしが若原君を好きだって事を聞いて、でも聞かなかった事にするっていうのは。
よく、少女漫画であるシーン。
勇気を出して告白した女の子に、男の子が言う言葉。
それは、諦めろって意味?
好きになってもしょうがないよ、って事?
ほかに好きな人がいるって事なの…
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