あたしが王宮に到着してから4日目が、フローラ姫の誕生日だった。
その日までの2日間を、あたしは気分がすぐれないことを理由に、部屋に閉じこもったまま過ごしていたの。
王様からは、お見舞のお使者が来ていたけれど、あたしは会わなかった。
あたしの部屋に入ったのは、ユーリルと、待女のリーナと、若原君だけだった。
若原君のあたしに対する態度は、前とは少しだけちがっていた。
それはどこがどう違うというわけではなかったけど、ほんのちょっとしたしぐさや視線、言葉の端々に漂う雰囲気が、あたしとの距離をちょっとだけ遠ざけているようだった。
誕生日の催しを明日に控えた夜、あたしの部屋には、ユーリルが来ていた。
ユーリルは相変わらずのビジネス口調で、あたしに話し続けていた。
「…正午にバルコニーから国民に顔見せをしていただきます。その時は国王陛下とご一緒です。その後お召し替えをしていただきまして、リリスの刻より宮中晩餐会で、社交界への事実上の公式デビューとなります。最初に国王陛下のお言葉がありまして、その後に皆様の自己紹介があり、その時に誕生日の贈り物が渡されます。顔と名前とを記憶していて下さい。それが終わりますと、音楽が始まりまして、ダンスタイムになります。最初は『リカーモンドワルツ』です。国王陛下と踊って下さい。途中、『可憐なフローラ』が流れます。その時にはおそらくどなたかからダンスのお誘いを受けることになるかと思いますが、丁重にお断りして下さい。ただし、陛下からのお誘いは断わらないように。
ころあいを見計らって合図をしますので、その時には速やかにご退出を」
あたしは聞きながら、ダンスのステップを思い出していた。
あたし、『リカーモンドワルツ』と、『可憐なフローラ』しか知らなかった。
そのほかは踊れと言われても踊れないわ。
「ユーリル?」
「はい、フローラ姫」
「もう1度ステップを教えて。本番で間違えそうだから」
あたしが立ち上がると、ユーリルはその前に膝まづいて、あたしの手を取り口付けした。
「リカーモンドワルツから。始まりは覚えておいでですね」
「ええ」
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