「若原君、何かあったの?」
「何でもない。…オレ、帰るわ。このまんまじゃちょっとヤバい」
「何が? あたし、何か悪いことした?」
「今、お前の側にいたくない。おやすみ、また明日な」
「若原君!」
 あたしの叫びが届いたのか届かなかったのか、若原君は振り返りもせずにでていってしまった。
 お前の側にいたくない。
 こんな言葉を聞くとは思わなかった。
 あたしいったい何をしたんだろう。
 若原君を傷つけるような、何か悪いことを言ったんだろうか。
 どうしよう。
 すごく、胸が苦しい。
 あたし、こんなに若原君が好きだ。
 自分でもどうしようもないくらい、若原君が好き。
 若原君、あたしのこと好きだって言ってくれたよね。
 普通の好きだけど、でも好きだって。
 あたし、嫌われてるんじゃないよね。
 嫌いな人を抱きしめてくれたりしないよね。
 若原君の腕のぬくもりが、身体からはなれないの。
 こんな気持ち、どうしたらいいか判らないの。
 誰か、あたしに教えて。
 若原君の心を教えて。
 若原君が、なぜあたしを抱きしめたのか。
 どうして突然帰ってしまったのか。
 あたしにはそれが判らないの。
 判らないの…
 ベッドに入ってからも、若原君の感触は、あたしの中から消えていこうとはしなかった。
 それはいつまでも、あたしの中から消えることはなかった。
次へ
扉へ
トップへ