「フローラ…ああ、こんなに大きくなって。父を覚えているか?」
「忘れたことなんて1度もありませんでしたわ。毎日お父さまの肖像画を見ていましたの。この日をどんなに待ち遠しく思っていたことかしら」
「ああ、フローラ。もっと顔をよく見せてごらん? こんなに美しくなって。フレイラに、お前の母にそっくりになって。一目見せてやりたかった。フレイラ、お前の娘は、こんなに美しく成長したよ。まるで花のようだ」
「わたくしもお母さまに会いとうございました。でも、こうしてお父さまにお会いできて、これほどの喜びはございません。フローラはしあわせです」
あたし、これほどの演技ができるなんて、自分では思ってもみなかった。
でもきっと、本当はこれはあたしの演技じゃないの。
フローラの思いが、あたしにこの行動をさせているの。
「さあフローラ。お前のために宮廷料理長が腕をふるったのだよ。席についてたくさんお食べ。お前の16年間を儂に聞かせておくれ」
あたしの不思議な感覚は続いていた。
あたしは王様に、あたし自身が知るはずのないフローラのことについて、様々な話を聞かせていた。
王様はそんなあたしを、とてもほほえましそうに見つめていた。
楽しそうに語るあたしは、その心の奥で、とてもやるせない気持ちになっていたの。
こんなにやさしい、こんなに姫のことを愛している王様を、あたしはだましている。
だまされていることを知った王様は、どんな気持ちになるだろう。
きっと、ものすごい絶望を感じるに違いないの。
あたしは罪悪感にさいなまれながら、表面的には、ずっとフローラを演じつづけていた。
「メリルは元気にしているのかな?」
ほとんど食事がかたづいて、デザートが運ばれてきたころ、王様はあたしに聞いた。
「はい、とても元気です。出発の直前までわたくしにお説教していましたわ」
「メリルももうそろそろゆっくりしてもいい頃だな。こうしてフローラも成長したことだし、2人の息子もすっかり一人前になった。グレン、兄のユーリルは今日は仕事か? お前が代理とは」
王様の言葉に、あたしは驚いていた。
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