「お前かわってよかったよ。今のお前なら、きっとどこでも好かれるよ。オレが保証する」
 そうか、普通の意味の好き、だったんだ。
 でも、それでも嬉しい。
 若原君に嫌われてないって判って、あたしはとっても嬉しいんだ。
「あたしも若原君好きよ。とってもいい人だもん」
 あたし言ってから、自分の言葉に自分で赤くなっていた。
 普通に言えたよね。
 告白には聞こえなかったよね。
 あたし今、若原君に告白する勇気ないもの。
 あたしの言葉に、若原君はとても嬉しそうに笑った。
 大丈夫みたい。
「本当に? オレのこと好き?」
「うん。だって、若原君を嫌いになんかなれないよ。若原君だもん。誰にもそんな事できない。こんなにやさしい人を、嫌いになることなんかできるはずないよ」
「そう言ってくれると自信が持てるよ。…実はさ、最近オレ、ユーリルに避けられてる気がするんだよな。オレ知らない間にユーリルに嫌われるようなことしたのかな」
「え? だって、そんなこと…」
 ユーリルが若原君を嫌い?
 それって、とてもおかしな事じゃない?
 だって、あたしたちがこんな所まで来て、姫の身代わりなんてやってるの、すべてユーリルのためなんだもん。
 若原君、ユーリルのために一生懸命なの。
 それなのに、ユーリルが若原君を嫌いになるなんて…
 そんなこと、若原君が許したってあたしが許さない。
 そんな道理の通らない事許せるはずないよ。
「たぶん勘違いだと思うよ。ありえないよ、そんなこと」
「だといいけどな。オレってけっこう勘がいいんだぜ」
 そう言った若原君は、さっきとは裏腹に、とてもつらそうな目をしていた。
 それが本当だったら、あたしユーリルをとっちめる。
 こんなにやさしい若原君を、こんなにも苦しめるなんて。
 あたしが見ている前で、若原君はころっとかわって、おどけたような顔をした。
 そして、あたしの心配そうな顔を覗きこんで、言ったの。
「人間腹減るとロクなこと考えないんだってさ。飯食おうぜ。腹減ってるだろ?」
 あたし、若原君の提案を受け入れることに決めていた。
 でも、ユーリルのことは、しばらく頭からはなれなかった。
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