「すぐに軽い食事を運ばせますが…その前に、これからのことについてお話し致します。
これから姫は身体を清められて、メイスの刻に国王陛下と会食がございます。それにはグレンがお供致します。それが終わりますと、陛下と姫様はお2人でラミネーラの塔にお入りいただき、1刻の間、神殿に礼拝していただくことになります。簡式の方の作法でけっこうです。くれぐれも国王陛下に悟られることのないように」
「判ってる。お父さまには本当のフローラだと思ってもらうように気をつけるわ」
「それで今日は終わります。神殿にはお迎えに上がりますのでご安心を。では私はこれにて。グレン、判っていると思うがお前は姫様の従者だ。さしでた振る舞いはしないように」
「心得ております」
「待女には姫様の邪魔をしないように申し渡しておきますので、ごゆるりとお休み下さい」
ユーリルと入れ違いに、待女のリーナが入ってきて、簡単な食事を用意していた。
リーナはすぐに下がっていって、あたしは若原君と2人きりになっていた。
しばらくは2人とも、食事に手をつけることはなかった。
「平原、疲れたんじゃないか?」
「そうでもない。馬車の乗り心地はいまいちだったけど」
「オレもだ。馬ってのは疲れる乗り物だよな。半日で助かったよ。きっとあざになっちまったな。見る?」
若原君が内腿をさすりながら言ったので、あたしは驚いてまっ赤になった。
若原君、冗談で言ったのに。
こんなに過敏に反応したら、若原君に変に思われるじゃない。
そんなあたしを見て、若原君は声をあげて笑っていた。
「お前の、一緒に寝よ、にはびっくりしたけど、お前って本来は純情可憐なんだよな。いまどきこれだけからかっておもしろい奴っていねーぜ。まるでおもちゃみたいだ」
いくら若原君でも、おもちゃはないよ。
あたし、ちょっとふくれた。
「ここへ来る前のお前って、まるで無反応だったじゃん。オレもけっこう対応に困ってたようなところがあってさ。でも、今のお前、オレすっごく好きだ」
若原君、今、なんて言った?
あたしのこと、好き…?
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