あたし、馬車に乗って、市中を巡ってたの。
隣につき従う馬は、若原君。
それは見なくても判った。
若原君は、あたしが礼儀作法を習っているあいだ、馬に乗る練習をしていたの。
運動神経の抜群な若原君は、まるで生まれたときから馬に乗っているみたい。
とっても優雅に手綱をさばいていた。
そうしてあたしたちが国民の歓声の中、大門をくぐると、あたりはとたんに静かになっていた。
待女のリーナは、ずっとあたしの側にいて、今どのあたりを進んでいるのかとか、飲みものはいかがとか、いろんなことを話していた。
あたしはフローラ姫らしく答えながら、少しずつ確実に王女宮に近づいていることを知ったの。
やがて王女宮の前で馬車が止まり、ドアが開けられた。
ユーリルにエスコートされて、あたしは馬車をおりる。
ここが王女宮。
きらびやかな雰囲気の、そしてやさしい感じを与えるように、少しまるみをおびた作り。
大理石をふんだんに使った床。
あたしによく似ていたけれど、あたしとはちょっと違う顔をした、2つの石像。
その間を、あたしはユーリルにつれられて、ゆっくりと歩いていった。
中庭にはフローラの花が咲き乱れている。
フローラの甘い香りが、あたしの心をとても豊かなものに変えていった。
ここはとても落ち着ける。
ここはきっと、フローラ1人のために建てられた王女宮なんだ。
それをあたしが気に入ってしまったのはとても変だけど、きっと本当のフローラも気に入ったはず。
あたしがつれていかれた部屋は、少し奥まった、それほど広くない部屋だった。
「リーナ、お前は下がりなさい。呼ばれるまでは誰もいれてはならない」
「承知致しました」
リーナが遠ざけられると、ようやくあたしは一息つくことができた。
フードも取って、解放感に浸る。
今この部屋にいるのは、あたしとユーリルと若原君だけだった。
「フローラ姫、お疲れ様でした。今までの姫の行動は完璧です」
「ありがとう。そう言ってくれて安心した」
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