そこはユーリルが言ったとおり、少し暗い部屋だった。
「姫、大丈夫でしたか?」
「ぜんぜん平気。楽しかったわ」
「これからはフローラ姫として振る舞って下さい。私は影武者をつれてきます」
たいして広くもない部屋からユーリルが出ていってしまうと、若原君がすうっと側によってきて、小さな声で言った。
「おもしろかっただろ。四次元空間なんかめったに見られないもんな。帰って自慢したいくらいだ」
「できるわけないわ。あたしもほんとは自慢したいけど」
それだけ話して、あとは静かにユーリルを待っていたの。
それほど待つこともなく、ユーリルは戻ってきていた。
うしろには、フードで顔を隠した、1人の女性を従えていた。
「お待たせしました。タミア、フードを」
タミアという女性は静かにフードを取った。
そして、あたしを見ると、その場に崩れ落ちるように平伏したの。
「姫様…ご無事で」
「姫、さあ早くフードをかぶって。私がいいと言うまで取ってはいけません。これは処女姫が世間の汚れを避けるために用いるフードです。これを取ったら、姫は王宮に入る資格をなくしてしまいます」
あたしはせかされるままフードをかぶった。
暗い部屋が、もっと暗くなった。
「タミア、お前は隠れていなさい。そして、姫が王宮に入ってから2日後に、離宮に旅立つように」
「判りました。姫様を、どうかよろしく」
「姫様はこちらへ」
ドアを出て、長い廊下をどう歩いたのか、あたしは1つの部屋にとおされていた。
そこはかなり明るい、豪華な一室だった。
「もうすぐ姫様は出発になります。すべては待女の指示に従って下さい。王宮に入るまでは私もグレンもお側にいられませんが、近くでお守り申し上げていますのでご安心を。グレン、お前は馬で馬車の警護だ。来い」
そうして若原君はユーリルにつれていかれて、あたしは1人になった。
不安で一杯だったけど、あたしはこれから姫として暮らさなければならないの。
あたし、これからのことを復習した。
馬車に乗るときの作法。
優雅な歩き方。
待女に対するしゃべり方。
湯浴みの作法。
あたしがいろいろなことを思い出していると、1人の待女が入ってきた。
そして、あたしの姫としての第1歩は、あわただしく始まっていた。
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