「心配してくれてありがとう。でもたぶん大丈夫だと思う。今度はユーリルがいろいろ教えてくれたから」
「そうか。それならいいけど。――明日はリカームの城下町だな。そこで、影武者の姫と身代わりの姫が入れ替わって、半日かけて王宮に入るのか。その後の予定聞いた?」
 あたしは教育を受ける方に忙しくて、王宮についてからの予定はほとんど知らされていなかったの。
 そういえば、王宮に入ってから、あたしは何をするのかな。
「ぜんぜん教えてもらってない。若原君は知ってるの?」
「さっきユーリルに聞いたよ。…まず、ついたその日は王女宮で湯浴みをして、身体を清める。親子水入らずの夕食会があって、初めて王様に会うんだってさ。従者のオレも出席できるように、ユーリルがねじ込んでくれたらしい。そのかわりユーリルは出席できなくなったって」
 明日あたしは初めて王様に会うんだ。
 ユーリルがいないとなると、少し不安だな。
「そのあとは王様と2人だけで、王宮の中にある簡単な神殿に礼拝するらしい。これは到着の報告で、1時間くらいの短いやつだよ。それでその日はおしまい」
「若原君は来ないの?」
「神殿だから、神官以外は王族しか入れないんだってさ。オレは外で待ってるよ。作法は習ったんだろ?」
「うん、まあとりあえず」
 若原君もユーリルもいないなんて、かなり不安だな。
 でも、しょうがないことだもんね。
 あたしが決めたことなんだから。
 きっと、なんとかなる。
 あたしが納得すると、若原君はあたしを見ていて、言った。
「お前って、ほんとにすごいな」
 若原君は片肘をついて、あたしに言った。
 あたし、若原君の言葉の意味が、よく判らなかったの。
「何の事?」
「お前けっきょく全部覚えちまったじゃないか。オレ、時々わきで見てたけど、1個もわかんなかったぜ。ほんとに覚えちまったな。ユーリルだってすっげー感心してた。お前って姫の素質あるんじゃないか?」
「あたしが覚えたのは…」
 若原君のためだって言いかけた。
 でもそれは言わなくていいことだから、あたしは別のことを言ったの。
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