この日から、あたしは姫になるための教育を受け始めていた。
 メリルからは、姫様の言葉づかいから、起居振舞、いろんな作法にいたるまで、様々ないわゆる躾を受けていた。
 ユーリルからは、この国の経済や政治、そして、人物の関係について、そのほかにも、ダンスのし方や、質問の答え方など、本当にいろんな事を伝授された。
 あたしには覚えることが多かった。
 物の名前や、その用途について。
 姫の生活習慣について。
 1日中くたくたになりながら、あたしはメリルとユーリルに代る代る教育されていった。
 そして10日も経つころには、ようやく姫としての自分に慣れて、とりあえず姫に見えるくらいには、あたしは成長していた。
 こんなに勉強したの、あたし初めてだった。
 ユーリルは完璧なカリキュラムを組んで、あたしにムダのない教育を施してくれたの。
 きっと、最初の晩、ユーリルは徹夜したに違いない。
 あたしも大変だったけど、ユーリルとメリルはもっと大変だっただろう。
 あたし、2人のおかげで、優雅に笑うこつを身につけた。
 指先まで気を使って振る舞うことを覚えた。
 これは、あたしがもとの世界に戻ってからも、十分に通用する。
 この教育はあたしにとって財産になったの。
 そのことではあたし、この2人に感謝をしていた。
 自分が今までどれ程粗雑だったかも判った。
 どんなに乱れた言葉づかいをしていたか。
 どれだけ自分を表現する事を怠ってきたか。
 あたし、自分の感じたことを表現することが、とてもへただったの。
 でもそれは、あたしが素直じゃなかったからだって気がついた。
 すべての物事にたいして素直になったら、まわりのものがぜんぜん違ってみえたの。
 それは新鮮な驚きだった。
 素直に感謝の気持ちを表わすこと。
 嫌な事は口ではっきり言うこと。
 それはフローラ姫の最大の美点だったけど、そうすることで、姫はすべての人に好かれた。
 それがどうしてなのか、最初あたしには判らなかったの。
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