「それじゃ、メリル、さっそくお着替えを。あとのことは先程申し渡したとおりに」
ユーリルが言ったとき、ドアをノックする音が聞こえて、若原君が顔を出した。
「入ってもいいか?」
「ちょうどいい。…聡殿、姫の乳母で、これから10日間姫のお世話をするメリルです。メリル。彼は若原聡殿。姫の従者グレンだ。そう呼ぶように」
「グレン…」
「そうだ。2年前に死んだ、従者のグレンだ」
「承知いたしました」
若原君が入ってきて、あたしは昨日のことを思いだしていた。
若原君がなにか言おうとする前に、あたしは言葉を出していた。
「若原君、昨日はごめんなさい!」
若原君はちょっと驚いたような顔をして、でもすぐに笑ってくれた。
あたし、ほっとしている自分を感じていた。
「オレが謝ろうと思ってたのに、先越されたな。あれはオレの方が悪かったんだ。一晩考えて反省した。平原、ごめんな」
あたしが驚いているのを、若原君はどう取ったんだろう。
すぐ側まで近づいてきて、言った。
「お前の無意識にはいろんな意味が込められているんだよな。オレはその一部分だけを見て、勝手に落ちこんじまったんだ。お前は、もちろんオレを男として見てないって部分も持っていたんだろうけど、そのほかにも、オレに対する信頼とか、そういう物も確かに持っていたんだ。オレはそれを見なかった。だからこれはオレが悪いんだ。謝るよ。ごめん」
若原君が一晩何を考えていたのか、その言葉だけでは判らなかったけど、でも1つだけ判ったことがあった。
若原君はきっと、どんな人でも許してしまうような、そんな考え方をする人なんだって。
人の行動を、いい方に解釈するの。
だから人に好かれるんだ。
あたしはまた1つ、若原君のことが判った。
そしてまた1つ、若原君のことが好きになっていた。
「若原君て、いい人だね。いまさらだけど」
「またそういう、解釈に困るようなことを平然と言う。オレ平原に悩まされてばっかりだな。これがオレの宿命かも」
あたし、そんなに難しいこと言ったつもりないんだけどな。
どうして若原君は悩むのかしら。
「お話が終わったようでしたら、男性の方々はそろそろご遠慮くださいな。姫様は着替えをなさいますので」
メリルは言って、2人を追いだしていた。
そうしてあたしは、このさわやかな朝に、若原君との仲直りを果たしたのだった。
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